ななよの即興ストーリー その3
サラと不思議な洋服屋さん③
どうやら、そのお店は洋服屋さんのようです。色とりどりの洋服が、壁やハンガーにたくさんつる下げられていました。
「あの、わたし、お客じゃないんです、」サラが言いかけたのと同時に、その小さな店員さんが、「きみ、ちょうど良いよ!」朗らかな大きな声で叫びました。そしてサラの手をひいて、奥の大きな鏡の前に立たせました。
「実は特別に仕立てさせたスカートがあるんだが、誰にもサイズが合わなくて処分しちまおうと思ってたんだ。でも、きっと君にはぴったりだよ。」
それは、柔らかい手触りの布で作られた細かい花模様のスカートでした。子供っぽくもなく、かと言って、背伸びしてる感じもなく、可愛らしい素敵なデザインです。サラは一目見ただけで、そのスカートが大好きになりました。
「でも、あの、わたしには、大きすぎることが多いから。」サラは、いつもみたいに、がっかりするのが嫌で、小さな声で呟きました。
けれどもその店員さんは、「僕の目を甘く見て貰っちゃ困るよ。」と言って、サラにスカートを渡して試着室のドアをパタンと閉めてしまいました。仕方なく、サラは足を通してみました。するとどうでしょう。今までサラが身に着けたどんなスカートよりもピッタリの長さで、ウエスト周りもちょうどよく、サラの小さな細い身体を可愛らしく見せてくれるのでした。
試着室を出たサラに向かって店員さんは言いました。
「ほうらね、ピッタリだろう。きみは自分のことを細くて小さすぎると思ってるけど、今の君にピッタリなものは、いつだって、どこかにあるんだよ。」
スカートを握りしめるサラの手に涙がポトリと落ちました。慌てて涙を手でぬぐおうとすると、視界がポーっとかすんで、スカートも、店員さんの姿も、お店も路地も跡形もなく消え、いつのまにかサラは、いつもの学校の帰り道の曲がり角に立っているのでした。
「ただいまー」家に帰ったサラにお母さんが「おかえり。お父さんから荷物が届いているわよ」と言って、小包の箱を差し出しました。
アメリカに離れて暮らす、サラのお父さんからの小包です。先週のサラの10歳の誕生日に届くはずだったのが、ずいぶん遅れて、ようやく今日届いたのでした。
包みをはがして箱を開けたサラは、目をパチパチしました。そこに入っていたのは、さっきサラが不思議な洋服屋さんで見たのと、そっくり同じ花柄のスカートだったからです。「サラおめでとう。きっと君に似合うはずだよ。」そこには、綺麗な鳥の羽のついたメッセージカードが添えられていました。
おやつを食べながら、サラはさっき出会った不思議な洋服屋さんの事を、お母さんに話そうかどうか、考えていました。何だか上手に話せない気がしたからです。そうだ、お父さんが次に帰ってきて三人で一緒におやつを食べる時まで、大事にしまっておこうと、心に決めました。
(そして何日か経つうち、洋服屋さんのことも、電球や鳥のことも、すっかり忘れてしまうのですがね。大人になっていくのは、そういうことのようです(笑))
・・・・おしまい。